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神戸地方裁判所姫路支部 昭和56年(ヨ)215号 決定 1982年1月19日

債権者 ハンコウ興産株式会社

債務者 西兵庫開発株式会社

主文

一  本件申請を却下する。

二  申請費用は債権者の負担とする。

事実

一  当事者双方の求めた裁判(債権者の申請の趣旨及び債務者のこれに対する答弁)は、別紙(一)記載のとおりである。

二  債権者の主張(申請の理由及び再反論)は、同(二)記載のとおりであり、債務者の主張(申請の理由に対する認否及び反論)は、同(三)記載のとおりである。

三  当事者双方の提出した証拠は、同(四)記載のとおりである。

理由

一  債権者は本件実用新案権が単なる運搬装置としてのモノレールの転用ではなく、ゴルフコースにおいてプレーヤーの移動に随伴してゴルフバツグを搬送する目的でモノレールを利用する考案であつてその点に新規性があり、従来のゴルフコースで用いられたゴルフバツグの搬送方法に比し進歩性があり、債務者の本件装置は本件実用新案権の範囲に属すると主張するに対し、債務者は本件実用新案権の権利範囲はその出願当時の技術水準を考慮すればその公報に実施例として記載されたものに限定されるべきであり債務者の本件装置は本件実用新案権の権利範囲に属しないと主張する。従つて、本件実用新案権の範囲については慎重な審理を尽して判断される必要がある。ところで、債権者は、本件実用新案権について、既に、本件装置の製造者である、申請外モノレール工業株式会社を相手として大阪地方裁判所に本案並びに仮処分事件を提起し、また、本件債務者を相手として当庁に本案事件(当庁、昭和五六年(ワ)第四九四号)を提起し、いずれも、同種争点を廻つて争つていることが弁論の全趣旨によつて明らかであるが、本件においては債権者は本件実用新案権を被保全権利として債務者に対し債務者の本件装置の使用を禁止し、その占有を排除すること、いわば、権利の終局的実現を求めている(断行の仮処分)ので、被保全権利に関する判断をひとまずおいて、保全の必要性について判断することとする。

二  ところで、本件のように仮の地位を定める仮処分における保全の必要性は、権利関係が確定しないために債権者に生ずる著しい損害を避け、又は債務者による急迫な強暴を防ぐなどの理由で、暫定的な地位を形成して権利関係を規整する必要がある場合に認められるべきものであるが、その認定に際しては、単に債権者側の受ける利益(仮の地位が得られないことにより蒙る損害)のみならず、仮処分を命ずることにより債務者側に生ずるであろう不利益(仮の地位を免れることにより得られる利益)をも勘案し、後者に比べて前者が著しく大きい場合にはじめて積極的に解されるべきものであり、とりわけ、いわゆる断行の仮処分にあつては、この判断は慎重でなければならない。

そこで、この見地から本件について考察するに、本件疎明資料及び審尋の結果を総合すると、次の事実が一応認められる。

1  債権者は、地元有力者一〇名が発起人となつて、昭和四七年九月ころ、設立された会社であり、昭和四九年一〇月ころ総工費約金一五億円を投入して一八ホールのゴルフ場(千草カンツリークラブ)を完成させ、次いで昭和五〇年七月二〇日からオープンしたものであるが、右工費の主要部分約金一二億円は、ゴルフ場の建設と並行して募集したクラブ会員約一、〇〇〇名からの入会預託金によつて賄われた。

2  右ゴルフ場は、オープン以来、比較的順調に発展し、昭和五六年二月末現在、会員数は一、四〇〇名余を数え、その入会預託金合計も金一五億五六五万円に達している。もつとも、昭和五六年度の収支は若干(金一、四五〇万円)の赤字であるが、入場者数の増大が今後も続くとするならば、収支は次第に好転してゆくものと思われる。尚、クラブ規約によれば、会員は払込後五年を経過すれば任意にクラブを退会することができ、その際には、債務者は会員に対し払込入会預託金全額の返還義務を履行しなければならないこととされており、現在はすでに右期間が経過していて、仮に、本件仮処分の結果、本件装置の使用が禁止された場合には後記4のような事情から会員の退会が予想され、現在、全会員について、右返還義務が具体化すれば債務者会社の資産合計が金一四億七、一一三万円余にすぎないことからみて、会社の存立そのものが危くなることが予想される。

3  本件で差止めの対象となつている別紙目録記載の装置は、申請外モノレール工業株式会社製造にかかるもので、同野村貿易株式会社を通して購入し、本体だけで金五、三〇〇万円以上の資金を投じて昭和五六年七月一〇日に設置、完成させたが、債務者としては、これを他に転売したり賃貸する目的を全く有せず、あくまでもゴルフ場設備として自己使用するためのものであり、現実の利用方法もこれを超えるものではない。

また、債務者と右各申請外会社との関係は、右に述べた以上のものではなく、特別な利害関係を有するものではない。

4  前記装置は、現在までに、債務者のゴルフ場の一番ホールから一八番ホールまで全コースにわたつて設置され、レールの総延長八、八〇〇メートル、カート台数六五台に達しており、ゴルフバツクの運搬はもつぱらこの装置に頼つている。

そして、仮に、現段階で本件装置の使用が禁止されてゴルフバツク搬送手段を電動式カートのシステムに切りかえるとすれば、本件装置のための既設の全レールを撤去する必要があること、右カート本体の購入とカート用の通路の設置に金五、〇〇〇万円を超える資金を必要とし、レールの撤去費用とあわせれば金一億円以上が必要であつて、債務者としてはその負担に耐えられないこと、また、ゴルフバツクの搬送手段をキヤデイのみに依存することは人員の確保の困難性と人件費の負担増からみて、実現が困難である。従つて、本件装置の使用が禁止された場合は、債務者としては、ゴルフバツグの搬送手段を奪われたこととなり、当然、会員その他入場者の厳しい不評を買い、ひいては大量の会員が退会するに至ることが予想される。

右疎明事実2及び4によれば、申請の趣旨記載のとおり、債務者が本件装置の使用を禁止されたとすれば、債務者が甚大な損害を蒙ることが明らかであり、最悪の場合には存立そのものが危くなつて倒産に至ることも十分に予想されるところである。

これに対し、本件仮処分を認容されることによる債権者の利益としては、本件実用新案権の存続期間(実用新案法一五条)中における、権利侵害の停止であり、これを認容されないことによる債権者の損害としては右疎明事実1及び3によつて明らかなとおり債務者が最終的ユーザーの立場にあることに照すと、せいぜい、モノレールシステム一式を売却した場合の得べかりし利益か、実用新案権の存続期間における実施料相当額(それも、せいぜい年間で実施品価格の数パーセントであることは公知の事実である。)を回収し得ないことにとどまるものというべく、それにしても債務者の規模からして、その支払が将来においては不可能ないし困難であるとは、到底考えられない。従つて、債権者の受ける利益も右のように限定されたものという他ない。債権者はこの点について、使用禁止がなされない場合は、他のゴルフ場も債務者を見習つて、債権者以外からモノレールシステムを購入する虞れがあると主張するが、右は債務者の行為とは直接関係しない、一般予防的な見地から自己の損害を主張するもので、私法上の保全の必要性の概念には含まれないというべきである。

そうだとすると、本件仮処分を認容する場合に債務者が蒙る損害と、債権者が受ける利益との間に、後者が前者をはるかに凌駕する関係が存しないばかりか、かえつて著しいアンバランスが存すること明らかであり、前述したところから、かかる場合には保全の必要性を認めるべきものではないと解するのが相当である。

尚、仮処分の内容は、申請の趣旨を超えない限り、裁判所が裁量で決めうるものである(民事訴訟法七五八条一項、二項)が、前記疎明事実3からすれば、債務者が前記装置の所有権を譲渡したり占有を移転する虞れは見当らないから、処分禁止や占有移転禁止の限度にとどまる仮処分も保全の必要性を欠くと解するのが相当である。

三  以上の次第で、本件申請は保全の必要性の疎明を欠くこと明らかであり、保証金をもつて疎明に代替させることも相当でないと認められるので、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものとして却下を免れず、申請費用につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 中村捷三 河村吉晃 加藤幸雄)

別紙(一)

一 申請の趣旨

1 債務者は、その経営にかかる債務者住所地のゴルフ場千草カンツリークラブに設置された別紙物件目録記載の「ゴルフコース用ゴルフバツグ搬送循環軌道装置を使用してはならない。

2 右装置につき債務者の占有を解いて、これを神戸地方裁判所所属執行官をして保管せしめる。

3 右執行官は、右装置の適当な箇所に封印を施して、債務者がこれを使用できないようにしなければならない。

二 申請の趣旨に対する答弁

主文一項と同旨

別紙(二)

一 申請の理由

1 債権者は左記実用新案権(以下、「本件実用新案権」という。)の権利者である。即ち、本件実用新案は、債権者代表者を出願人として昭和四七年五月一九日出願され、昭和四九年二月一五日出願公開、昭和五二年一月二〇日出願公告となり、申請外モノレール工業株式会社外からの異議申立によつて一旦は拒絶査定となつたものの、これに対する審判請求が認容され、昭和五六年三月三〇日に原査定取消の審議が出され、同年七月三一日登録に至つたものである。そしてこの権利は債権者に譲渡された。

(一) 考案の名称 ゴルフコース用ゴルフバツグ搬送循環軌道装置

(二) 出願日   昭和四七年五月一九日

(三) 出願番号  昭四七―五九一五五号

(四) 出願公開  昭和四九年二月一四日

(五) 公開番号  昭四九―一七三五一号

(六) 出願公告  昭和五二年一月二〇日

(七) 公告番号  昭五二―二五三一号

(八) 審決日   昭和五六年三月三〇日

(九) 登録日   昭和五六年七月三一日

(一〇) 登録番号 第一三九〇一九六号

2 しかして、本件実用新案権の内容は、実用新案公報中の登録請求の範囲欄に、「ゴルフコースに沿つて立設した多数の支柱上に、ゴルフバツグを運搬する自走車輛を前記ゴルフコースに沿つて巡回走行させる軌条を敷設したゴルフコース用ゴルフバツグの搬送循環軌道装置と記載されているように、

(一) ゴルフコースに沿つて多数の支柱を立設し

(二) 右支柱上に軌条を敷設し

(三) 右軌条上をゴルフバツグを運搬する自走車輛を巡回走行せしめるように構成された

以上の三要件からなるゴルフコース用ゴルフバツグ搬送循環軌道装置である。

3 債務者は、申請外モノレール工業株式会社製作にかかる別紙目録記載の「ゴルフコース用ゴルフバツグ搬送循環軌道装置」(以下、「本件装置」という。)を、昭和五六年七月ころ、申請外野村貿易株式会社を通して購入し、以来、住所地所在の千草カンツリークラブに設置し、使用、占有している。

4 本件装置は、別紙物件目録中に記載された説明から判明するように、本件実用新案権の三構成要件を全て備えており、債権者の権利を侵害するものである。

5 債務者は、本件実用新案権の登録の審決のあつたことを知りながら、あえて本件装置を購入、使用しているものであり、違法精神に欠けること前記各申請外会社と同様で、共同不法行為者としての責任を負うべきところ、本件実用新案権の残存期間は約五年しかないので、早急にその使用を差し止めない限り、債務者は、権利侵害行為に対して何の責任も負うことなく、また債権者は、債務者の違法行為をなすこともなく受忍しなければならず、本件実用新案権は法の保護を受けられない結果となるのは必定である。

更に、本件実用新案権を具体化したシステムの販売マーケツトであるゴルフ場は、その絶対数量においてすでに限定されており、その上販売可能なゴルフ場となると、さらに数量が限定されていることから、本件で差止が認められないとなると、他にも債務者を見習うゴルフ場の輩出するであろうことは明らかであり、かくなれば債権者は到底回復し難い損害を蒙ることになる。

6 従つて、本案訴訟(当庁昭和五六年(ワ)第四九四号)による救済を待つことなく、本件申請に及んだ次第である。

二 再反論

1 運搬装置としてのモノレールそのものの一般的構造や特性は古くから知られており、これが果樹園の収獲用、農園での薬剤撒布用、あるいは土木用工事現場の運搬装置等とその利用範囲が拡大していつた過程において、当時としては奇抜なアイデアとして「搬送の革命機」とまで評価された事実があつたとしても、それはより安全で有効な機械的手段の開発という課題を解決したものにすぎず、あくまで純然たる貨物運搬用としての用途の拡大であり、それ以上に思考の発展はないのである。このことは、ゴルフ練習場におけるゴルフボールの運搬用モノレールや、ゴルフ場におけるコース整備のための芝や資材運搬用のモノレール装置についても同様であり、貨物をある地点からある地点へ移動させることのみを目的とするものである。

これに対し、本件実用新案は、単にゴルフバツグを出発地点から到着地点へ運搬移動させることを目的とするものではなく、ラウンドするプレーヤーの助手たらしめるため、プレーヤーの移動に随伴して移動することを目的とするものである。そして、従来、業界において、キヤデイや電動カートに代わりうるゴルフバツグ搬送手段の新規開発の必要性の認識もなく、またそのことを提唱する者もいなかつたにも拘らず、債権者代表者は、将来の展望の下に、今日あることを予知し、ゴルフバツグ搬送手段としてモノレール装置を利用する考案をなしたもので、そこにはある種のひらめきと思考の飛躍を要し、新規性が認められるとともに、従来の電動カート等に比して進歩性が存するのである。

2 本件実用新案権の範囲の解釈にあたり、実用新案公報に記載された実施例に限定してなされるべきだとの債務者の主張の前提が誤りであることは、1項で述べたとおりである。

そして、本件装置の、支柱の上部側方に連結棒を介して軌条を取り付けた構造も、U字溝の壁面に連結棒を介して軌条を取り付けた構造も、いずれも本件実用新案権にいう「多数の支柱上に軌条を敷設する」構造であることに変わりはない。即ち、跨座式モノレールにおいては、軌条を地面に直接敷設せず、適当な地上高の中空に保持しなければならないことは常識であるから、「地上に立設した支柱上に軌条を敷設する」とは、軌条を中空に保持するための手段を指すこと明らかであり、支柱の材質、形態、高さ等についての限定はない。つまり、軌条の取付位置は、軌条を中空に保持せしめる位置であれば足り、支柱の上端であろうとその側面であろうと、また、U字溝内に支柱を立設する代わりにU字溝の側壁を利用したものであろうとなかろうと、右概念に含まれるものである。

別紙(三)

一 申請の理由に対する認否

1 申請の理由1項の事実は認める。

2 同2項のうち、実用新案公報に債権者主張の文言の記載があることは認めるが、その余は争う。

3 同3項の事実は認める。

4 同4項は争う。

5 同5項は争う。

6 同6項は争う。

二 反論

1 本件実用新案権の権利範囲を判断するに当つて、その出願当時の技術水準を考慮するに本件実用新案権は、ゴルフコースにおいてゴルフバツグを搬送するについて、公報に実施例として記載された多数の支柱上に軌条を敷設する構成、すなわち軌条直下に支柱を取り付けて軌条を支える特殊構造のモノレールを用いることとした点に限定して、その意義が認められるべきものである。即ち、

(一) モノレールは、小型貨物の単軌条による搬送装置として昭和四一年ころ開発せられたものであるが、各種搬送目的に応じて必要な設置場所に随時設置利用せられるべき搬送手段として広く知られてきており、例えば当初みかん山等の急傾斜地における小型貨物の搬送のために開発使用されたが、このように搬送手段として適切である限りその利用範囲は本来無限に広範囲のものである。従つて、モノレールの利用対象または利用範囲を特定することのみでは「自然法則を利用した技術的思想の創作」性は皆無である。

(二) モノレールを現場に設置するについて、具体的使用目的の必要に応じて循環状に設置することは古くから知られており、公知の事実である。また、ゴルフコースにおけるモノレールの設置使用については、昭和四六年一〇月ころ高知市の朝倉パブリツクのゴルフ場において、ゴルフコースに沿つて申請外モノレール工業株式会社の製造にかかるモノレールが設置された例があり、コース補修用小型資材、芝生等をコース内の随意の場所へ搬送するのに使用されていた。

(三) モノレールは一本のレールの上を走行する自走車の姿勢を保つためにはレールの下方にも自走車の構造部分が突出せざるを得ず、これを解決するためにレールを地表面から上方に引き離す方法をとることとして、支柱によつてレールを地表面から上方に引き離す基本構造をとつていた。

(四) モノレールを設置する地表面は、平担地より凹凸起伏の多い土地が多いにも拘らず、設置されるレール面はなだらかで円滑な平面又は曲面でなければならない。そのためには、支柱設置箇所ごとに、地表面からのレールの高さを支柱ごとに簡単に調節可能とすることが望ましいが、この目的を達するために、モノレールにおけるレールと支柱との位置関係としては、その開発当初から、支柱の上部付近の一側方にレールをボルト等を介して上下方向に調節可能に固定することにより、支柱とレールとの間に一定間隔を設けて取り付ける方法をとつてきた。従つて、従来は、上下の車輪でもつてレールの一側方向からレールの上下両面を全面的に緊締挾持する方法によつて、重心が高くて重い自走車がレール上から転倒しないよう機構上特別の工夫を施した上下挾持式タイプの自走車が一般化し、広く普及してきた。

(五) ところが、本件実用新案権においては支柱上に軌条を敷設する構成、即ち、軌条直下に支柱を取り付けて軌条を支えるタイプのモノレールを用いることとしているので、右両者を比較すると、本件実用新案権では自走車の荷重を支柱の軸心線上において垂直に支持することができるため、債務者の本件装置のように支柱の間隔を狭める必要がなく、支柱の数を大幅に少なくすることができる。他方、軌条を支柱上端に載置固定する構成としているため、軌条の地上高さを調節するには支柱自体の地上高さを調節する以外に方法がなく、本件装置のように起伏の多いゴルフ場において軌条を簡単に敷設することができず、また、一旦、立設した支柱の不等沈下を復原する作業は容易でないという欠点を有する。

(六) 本件実用新案権を登録すべきものとした前記審決には明白な無効審判事由が存する。

即ち、(一)で述べたように、モノレールは搬送手段として適切であるかぎり、その利用範囲は必要に応じて本来無限に広範囲のものである。そして、実用新案公報に記載された実施例は、(二)で述べた従来から知られている利用の仕方に照すと、つまるところ、ゴルフ場においてゴルフバツグ運搬にモノレールを用いるというだけのことに帰着し、利用範囲の広いモノレールの利用対象又は利用範囲を特定しているだけであるから、そこには何の考案性も認められない。審決理由はこのことを全く看過し、モノレールの一般的特性をあたかも本件実用新案による作用効果として把握する誤りを犯している。

従つて、このように明白な無効審判事由が存する本件実用新案権の解釈にあたつては、均等拡大解釈をなすことはできず、公報に記載された唯一の前記実施例に限定してなされるべきものである。

2 本件装置は、1項(四)で述べた、従来からの上下挾持式タイプの自走車を有するモノレールであり、一般的な作用効果上の特徴も同所にて述べたとおりである。

その上、ゴルフコース中、ゴルフプレイヤーのプレイが比較的集中しがちなフエアウエイの近くの地域においては、土中に連続して埋設されたU字溝に沿つて、一・五メートル以内の間隔ごとに、軌条の両側壁を貫通する連結棒をU字溝の片側側壁と直交させ、かつ、該側壁と軌条との間に一二センチの間隔(芯芯間隔)を設けて該側壁の上部側方に軌条を取り付ける構造を有している。

この構造のため、軌条はU字溝の溝内中において地表面よりも低い位置に敷設されることとなり、従来一般に使用されてきた地上露出タイプのモノレール(本件実用新案権の実施例を含む。)にはみられない、以下のすぐれた作用効果を有している。

(一) モノレールを走行せしめるにも拘らず、その敷設箇所におけるプレイヤーのプレイ上の障害とならない(高度のメンタル性が要求されるゴルフプレイにおいて、連続する立体的人工障害物を視認しえないことのもつ意義は大きい。)。

(二) フエアウエイにもつとも近い地域に敷設することができて、ゴルフクラブの出し入れが迅速となり、プレイの進行を早める。

(三) ゴルフ場の管理上も、モノレールの存否を全く区別することなく、芝刈車輛の走行等所要の管理をなしえて、迅速容易となる。

(四) U字溝は、付近一帯の雨水を集中排出するため、ゴルフコースにおける雨水等の滞留や湿潤化を避けることができ、コースコンデイシヨンを良好に保ちうる。

3 従つて、本件装置は、本件実用新案と対比し、軌条を支持するための支持部材の構成及び該支持部材と軌条との位置関係に関する構成を異にし、この構成上の相違に基づき作用効果も著しく異にするものであつて、本件実用新案権の必須構成要件を全く充足せず、権利範囲に属しないこと明らかである。

4 本件申請には、保全の必要性が存しないこと、以下に述べるとおりである。

(一) 債務者は、本件装置が本件実用新案権の技術的範囲に属しないことを確信して導入に踏み切つたものである。そして、本件装置の製作者である申請外モノレール工業株式会社は、このことを債権者に対し、再三にわたり説明し理解を求めたのであるが、全く耳をかそうとせず、かえつて、右申請外会社ら製造、販売する者にとどまらず、ユーザーである債務者らゴルフ場関係者に対し、一方的な主張内容の文書を送付したり、業界誌に一方的主張に基づく情報を提供して記事にさせる等、きわめて強引な方法をとつており、更に右申請外会社のシステムを設置している多数のゴルフ場のうち、比較的営業基盤が弱いと思われる債務者一社を選んで本件申請をなして、その事実を業界にふれ歩くことにより、債権者の他のゴルフ場に対する売込みを有利に展開しようとしており、このように威嚇手段にすぎない本件申請は、制度を濫用するものとして到底許されるものではない。

(二) 債権者は、既に申請外モノレール工業株式会社を相手にして、大阪地方裁判所に本案訴訟及び仮処分事件を提起している。しかし、右会社と異り債務者は、本件装置を製造、販売するものではなく、最終的なユーザーにすぎない。従つて、仮に本件装置が本件実用新案権を侵害するものだとしても、差止がなされないことにより債権者が受ける損害が回復不能なほどに増大することはありえない。せいぜいその損害は、モノレールシステム一セツト分に対する得べかりし利益額か実施料相当額の金銭的賠償をもつて償いうるものである。

また、現在の我国におけるゴルフ場の数は一、三〇〇か所を越え、その内ゴルフバツグ運搬用モノレールシステムを導入していないゴルフ場は一、一五〇か所を越えているから、今後債権者は自由に営業活動をなしうる余地を有しているうえに、本件装置と、本件実用新案権に基づき債権者が実用化している装置とは、前記1、2項でみたように構造、作用効果上の特徴において多くの相違点があり、ユーザーであるゴルフ場経営者としては、自らのゴルフ場に最も適したシステムを、慎重な検討を経て選択するものであるから、厳密な意味での市場競合はなく、従つて、本件装置に対する差止がなされなくとも、債務者をみならうゴルフ場が輩出して債権者の損害が拡大することはありえない。

(三) 債務者は、ルールと品位を重んじるゴルフプレーヤーを対象とした会員制のクラブ組織であり、いわば一種の接客業であるので、本件仮処分事件が係属中であるというだけで、信用を著しく失遂しつつあり、営業上蒙る損害は日々拡大しているのである。このうえに仮処分決定が発せられる事態に至れば、仮に主文が現状維持を命ずるものにすぎなくとも、ゴルフクラブの経営を継続することが不可能となり、倒産することは必定である。

即ち、千草カンツリークラブにおいては、既に金五、五〇〇万円以上の資金を投じて、ゴルフバッグ運搬手段をモノレールシステムに完全に切りかえているので、今更、これを電動式カートやキヤデイに変更、依存することは事実上不可能である。また、債務者においては、昭和五二年以来、会員からの預託保証金(総額約一五億円)の返済期が到来しているところ、本件装置の使用禁止等の事態が発生した場合には、会員からの退会申し出が多数生ずることが明らかであり、そうなれば、たちまち、返済資金の資金繰りに窮する結果となる。

従つて、本件申請が認容された場合に債務者が蒙る損害は、金銭的補償によつては償い得ない程度に重大であり、本案訴訟において勝訴しても、もはや回復の途がないものとなること明白である。

別紙(四)<省略>

物件目録

一 図面の説明

第1図の1は、土中に埋設されたU字溝の講内において片側側壁の側方に連結棒を介して支持されたモノレールと該モノレール上の自走車の側面図、第1図の2は、多数の支柱の側方に支持されたモノレールと該モノレール上の自走車の側面図、第2図の1、2は、それぞれその正面図、第3図の1、2は、それぞれその斜視図、第4図は、千草カンツリークラブのゴルフコースに沿つてモノレールを循環敷設した状態を示す平面図である。

図面中、(4)は、バツテリーを動力源とする自走車の後部上面に突出して設けた発進停止用スイツチ(ハンドルレバー)、(6)は、テイーインググランド(単位ホールにおいて最初に球を打つ場所)、(7)は、スルーザグリーン(芝生が植成され、またバンカー等が設けられている。)、(8)はグリーン(芝生が短く刈り込まれ、適当な場所に球を沈めるためのカツプが掘られている。)、(9)は自走車を収納するカートハウス(軌条によつて導かれ、ここでバツテリーの充電等が行なわれる。)をそれぞれ示すものである。

二 本件装置の構造

次の<1>ないし<4>の構造を備えた図面に示すとおりのゴルフバツグ搬送循環軌道装置

<1> 土中に埋設されたU字溝(5)の溝内に敷設する軌条(2)を固定するための取付部材(10)は、[ 型の凹部をU字溝(5)の片側側壁に上方から嵌合したうえボルト(11)・(11)・(11)により取り付けてある。なお、該取付部材(10)は、U字溝の外側壁に沿つて地中に埋設されたパイプ(16)をボルトにより保持している。

支柱(5)には、その上下方向調節可能に、軌条(2)を固定するための取付部材(10)と、支柱(5)の地上高さを規制固定するための位置規制部材(13)とをそれぞれボルト(11)・(11)により取り付けてある。

<2> 軌条(2)は、ゴルフコースの一番ホールから九番または一八番ホールまで順次循環してU字溝(5)の溝内および地上一五ないし二〇センチメートルの高さにそれぞれ次のIおよびIIのとおり取り付けられている。(千草カンツリークラブにおけるその区分は、第4図のとおりである。)

I ゴルフコース中ゴルフプレイヤーのプレイが比較的集中しがちなフエアウエイの近くの地域において、土中に連続して埋設されたU字溝(5)に沿つて一・五メートル以内の間隔ごとに、軌条(2)の両側壁を貫通する連結棒(12)(この連結棒(12)は該取付部材(10)と構造上一体である。)をU字溝(5)の片側側壁と直交させ、かつU字溝(5)の溝内において該側壁の上部側方に固定することにより、該側壁と軌条(2)との間に一二センチメートルの間隔(芯芯間隔)を設けて該側壁に取り付けてある。

II ゴルフコース中ゴルフプレイヤーのプレイが比較的集中しがちなフエアウエイの近くの地域以外の地域において、一・五メートル以内の間隔ごとに立設した多数の支柱(5)に対して軌条(2)の両側壁を貫通する連結棒(12)(この連結棒(12)は該取付部材(10)と構造上一体である。)を支柱(5)と直交させ、かつ支柱(5)の上部一側方に上下方向調節可能に固定することにより支柱(5)と軌条(2)との間に七・五センチメートルの間隔(芯芯間隔)を設けて、取り付けてある。

<3> ゴルフバツグ(1)を積載して該軌条(2)上を走行する自走車は、自走車内に搭載したバツテリーを動力源として電動機が駆動されることにより走行し、前後二組の上下各二個の車輪のうち上部側二個の車輪は車台側板自体に、また下部側二個の車輪は車台から軌条(2)の一側(支柱(5)のない側)下方に突出させた二個の揺動アーム(14)の先端にそれぞれ車軸を介して取り付けてある。

<4> 右自走車は、車台下方にある前後二組の各上下二個の車輪がバネ(15)の働きにより軌条(2)の上下面を全面的に挾持緊締することによつて支持され、該軌条(2)上を巡回走行する。

三 商品名

「モノカート」

第1図の1<省略>

第1図の2<省略>

第2図の1<省略>

第2図の2<省略>

第3図の1<省略>

第3図の2<省略>

第4図 千草カンツリークラブ<省略>

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